【おしゃべりなブタの話】 あるところに、とても大きくてとても広い森がありました。 そこには大勢の動物たちと一緒に、 一頭のおしゃべりなブタが住んでいました。 ある日のことです。ブタがブヒブヒ言いながら森の中を歩いていると、 一匹のオバケに会いました。 「うわあ、オバケだあ!」 「驚くことはないよ。君にいいことを教えてあげる。」 オバケはそう言うと、歌を歌い始めました。 「♪ウサギがおしっこ飲んじゃった!クマがうんちを食べちゃったー!」 これを聞いたブタは大変びっくりしました。「これは大スクープだ!」 誰かにこの話を伝えたくてたまらなくなったブタは、 森の中を走り回り、大声で歌いました。 「♪ウサギがおしっこ飲んじゃった!クマがうんちを食べちゃったー!」 ブタの歌はたちまち森じゅうに響き渡りました。 びっくりしたリスがキツネに聞きました。 「ブタ君が言ってる事はホント?」「ええ!?僕は知らないよ。」 びっくりしたキツネがヤマネコに聞きました。 「ブタ君が言ってる事はホント?」「ええ!?私は知らないわ。」 びっくりしたヤマネコがクマに聞きました。 「ブタ君が言ってる事はホント?」「誰がそんなことを言ってるんだ!」 クマは激怒しました。 ウサギはくやしくてぼろぼろと泣きました。 しかしブタはそんなことに気付きません。 まだまだ歌い続けます。 「♪ウサギがおしっこ飲んじゃった!クマがうんちを食べちゃったー!」 それを空から聞いていた鳥たちがブタに向かって言いました。 「ブタ君が歌ってる事はホント?」 「ホントだよ。」 「食べてる所を見たの?」 「見てないよ。オバケから聞いたんだ。」 「それじゃあそのオバケは  クマとウサギがうんちとおしっこを食べたのを見たの?」 「知らないよ。今日初めて会ったんだもの。」 「ええっ!?じゃあウソかも知れないじゃあないか!」 鳥たちは大変びっくりしました。 ツバメが言いました。 「ブタ君、すぐに歌うのをやめるんだ!  クマ君とウサギさんのともだちがいなくなっちゃう!」 するとブタは、 「なんで歌をやめなきゃいけないの?本当のことかも知れないもの。  本当の事だったらみんなに教えてあげなくちゃ。」と答えました。 キツツキが言いました。 「仮にウソだとしたら君がみんなを騙してることになるんだよ?  すぐに森のみんなに謝らなくちゃ!」 するとブタは 「なんでボクが謝るの?  ボクはオバケの歌った歌を歌ってるだけだもの。」と答えました。 モズが言いました。 「ウソか本当かわからない歌は歌っちゃダメなんだよ!  すぐにオバケを取っ捕まえて本当かウソか確かめなくちゃ!」 するとブタは 「なんでボクが確かめなくちゃいけないの?  本当かウソか知りたいのなら君たちが捕まえなくちゃ。」と答えました。 そんなブタの態度に、鳥たちは心底あきれてしまいました。 「もうブタを相手にするのはよそう。」 「ボクたちでなんとかしよう。」 そして空へ飛び立つと、みんなで一斉に歌い始めました。 「♪ブタの言うこと信じちゃならぬ 証拠もないのにけなしてる」 これを聞いたブタは真っ赤な顔で怒り出し、 「ボクはウソつきじゃないぞ!」と、 負けずに大きな声で歌いながら森じゅうを走り回るのでした。 「♪ウサギがおしっこ飲んじゃった!クマがうんちを食べちゃったー!」 もう森じゅうが大騒ぎです。 「ブタ君が言ってる事はホント?」 みんながクマとウサギに聞きます。 クマもウサギも、とてもみんなと遊ぶことはできません。 このままではいけないと思った動物たちは、みんなで集まって相談しました。 「よし、裁判を開いてはっきりさせよう。」 裁判官には森で一番歳を取っているカメが選ばれました。 カメは鳥たちに聞きました。 「どうしてそんな歌を歌うの?」 鳥たちは答えました。 「ブタ君の言うことを森のみんなに信じて欲しくないからです。」 カメはブタに聞きました。 「どうしてそんな歌を歌うの?」 ブタは答えました。 「オバケからそう聞いたからです。」 カメは続けてブタに聞きました。 「それが本当である証拠は? オバケが本当のことを言っていたという証拠は?」 ブタは困ってしまいました。 カメは森の動物たちに言いました。 「判決が出たね。ブタ君の歌は信用できないので、  これからはみんな歌ったり聞いたりしないように。」 これを聞いてブタは怒りました。 「裁判長、それは不公平です。  どうして鳥たちに、ボクの歌がウソである証拠を聞かないのですか?」 カメは言いました。 「ウソである証拠は必要ないよ。  だって鳥たちは最初から判決と同じことを歌っていたんだもの。  『ブタの言うこと信じちゃならぬ』ってね。」 するとブタは言いました。 「じゃあ判決なんか出さなければ良かったんだ! 裁判もしなければ良かったんだ!  そうすればボクはずぅっと歌っていられるんだもの!」  「君がそんな歌を歌っていたから、クマ君もウサギさんも  みんなずっとずぅーっと遊べなかったんだよ?」 動物たちが大いに怒ってブタに言うと、ブタはこう反論しました。 「知らないよそんなこと! 今はもう、クマ君もウサギさんも  うんちやおしっこを食べてないならそれでいいじゃないか!  裁判なんかすることなかったんだよ! 蒸し返すなんておかしすぎるよ!」 もうむちゃくちゃです。 「ブタ君はあやまる気持ちもないんだね。反省もしないんだね。  こうなったら仕方がない、知らんぷりの刑にしよう。」 カメ裁判長は言いました。 動物たちも鳥たちもこの意見に大賛成です。 ブタは森じゅうのみんなから相手にされなくなりました。 どこに行っても知らんぷり。何を言っても知らんぷり。 みんなから信用されなくなったブタは、 布団の中で泣きながら考えました。 「どうしてこんなに叩かれなきゃならないんだろう。  ボクは何も悪いことしてないのに。  わざわざ大スクープを教えてあげたのに。  みんなクマ君とウサギさんの味方ばかりして。  あの歌を無かったことにしたがるなんて。  ということは、やっぱりボクの歌はホントのことだったのか!  何も知らない鳥たちまで利用するなんて、なんて卑怯なんだ!  正体われたぞ!  こうしちゃいられない。もっともっと歌わなきゃ!  どこかに何も知らない動物たちがいるはずさ。  世界はこんなに広いんだもの。その動物のために歌おう!」 ブタの妄想はとどまるところを知りません。 布団から出ると、ブタはよりいっそう大きな声で歌いました。 「♪ウサギがおしっこ飲んじゃった!クマがうんちを食べちゃったー!」 北の山まで届くように。南の海まで届くように。 森のみんなはカンカンになって怒りました。 「こうなったら神様に何とかしてもらおう。」 みんなは桜でできた門の奥に住んでいる森の神様に訴えに行きました。 「そろそろ来ると思っていたよ。」 神様は、もう何もかもお見通しでした。 「ブタをこらしめてやろう。まかせなさい。」 神様は森のみんなにそう言うと、突然ひかりの早さで走り出し、 ブタを捕まえたかと思うとそのままどこか遠くへ行ってしまいました。 「神様ありがとう。ありがとう神様。」 森のみんなは神様に感謝しました。 こうしてブタは、森のみんなの誰も手の届かない所へ行ってしまい、 森には平和で静かな毎日が戻りましたとさ。 おしまい